「それ、何の役に立つの?」なんて言わないでさ!

4月から子どもを保育園に通わせるようになって半年、忘却の彼方へと吹っ飛んでいた仕事のペースも次第に効率よく回りだし、身体や思考も産前のような自分らしさが戻ってきた。

風の時代とともに始まった乳児との生活は、果たして再び以前のような社会生活を送ることができるのだろうか? と思わせるほどに心も身体も激変してしまう経験だったけれど、こうして過ぎてみると「ご安心あれ、時が経てば元どおり!」の一言に尽きる。

1年前の私は、すっかり変わってしまった心と身体にモヤモヤとした焦りを携えて、そんな悩みを先に母になっていた友人らに吐露すると、皆口を揃えて「いつの間にか戻ってるものだよ〜」とカラリと笑い飛ばしてくれた。だけど私にとっては、今すぐどうにかしたい!という一心で、せっかく励ましてくれたのにこんな言い方って酷いけれど、何ら慰めにはならなかったのだった。

いや、でも本当にその通りだったんだよね。時が解決してくれる。さらに言えば、その時間は必要だったのだ。新たな人間を宿し産み育てるのだから、言うまでもなく母という存在は必死にその小さな命と向き合うだろう。今しかない、ふわふわの我が子に心血を注いでいるのだから、それで充分。何もしたくなければ何もしなくて良し!今ならそう強く言えるのだけど、渦中は本っ当に視野が狭くなっていた。それもまた子を育てるための “必死な母” に適した思考と身体であったのだろうけど。

ところで本格的に社会復帰を果たして、自分のペースを取り戻した私には、以前とは少し変わった点もあった。それはお金を稼ぐということへの絶対的な執着が薄れたことだった。もちろん働く喜びは金銭を得ることだけではなく、自己実現とか社会貢献性などの意義もあるけれど、とりわけ金銭的な利益を獲得することは働く上での最たる目的と言って良いだろう。

もう十数年前のことになるが、まだ会社員だった頃、私はファッション情報サイトを運営する部署に配属され、主にショッピングサイトの企画制作に携わっていた。そこではあらゆる事が指標として金額に換算されていた。ページビュー、コンバージョン等、計測できる数値はもちろんのこと、見出しの一字一句やページ構成、デザイン構成、制作時間、会議の時間など全てが効果測定され、何によってどれほどの売り上げが見込まれたのかを検証された。そこで徹底的に植え付けられた考え方は、独立してからも根底にあって、生産の根っこにはどれだけ利益が見込まれるかが基準でなければならないと信じていたし、そうでなければ仕事とは言えないのだと社会経験の中でディープに刷り込まれてきたのだ。

だけど一旦、賃金を生み出すサイクルから外れてみると、仕事 = お金を稼がねばならない といった呪縛にも似た観念は薄らいで、お金に換えることのできない他の何かを得ることだって価値のあることだよと、素直に認められるようになった。子育てという無償の奉仕による喜びに触れたせいだろうか、ごく自然な流れで ” お金にならないこと ” もしてみたくなったのだ。

それは、お客様へとっておきのレターセットで心を込めて手紙を書く事だったり、体調を崩していた方のためにハーブティーを調合して届けてみることだったり、来てくださった方全員にお花をサービスすることだったりと、日頃の感謝を思いつくまま形にしてみることだったのだけど、その結果何が起きたかというと、素晴らしい充実感とドラマティックな展開が待っていた。

例えば、相手の嬉しそうな笑顔とありがとうの言葉に胸がいっぱいになってこちらまでハッピーになれたりだとか、大好きな取引先の方とより親密になり互いに今後のビジョンが見えたりだとか、無料や割引のサービスをしたことがきっかけで後日たくさんの注文を頂いた、なんてこともあった。そんな具合で気持ちの充実だけに終わらず、想像を超えたリターンもあったのだ。

この “想像を超えて” というところが密かにポイントなのだけど、お金と違って額が決まっていない分、give に対してどんな take が返ってくるかは、未知で無限だということ。何が起こるかは分からない。でもその余白さえもイマジネーションで丸ごと楽しむことができたら、これってすごく新時代的でマチュアな心得なのでは? なんてふと思ったりした。

胸に手を置いて、子どものような無邪気な心の声が聞こえたら「それ、何の役に立つの?」なんてあしらわずに、軽やかなスタンスでやってみる。そしてその後の予測できないシナジーを面白がってみる。それだけで未来は変わるのかもしれないと感じた出来事だった。

“「それ、何の役に立つの?」なんて言わないでさ!”への 3 件のコメント

  1. とと より:

    はじめまして。
    読んでいて、先のことがすごく楽しみになってきました。
    わたしの子供は来年の4月に幼稚園に通う予定です。
    冒頭の方でおっしゃっているように、風の時代と共に始まった育児は心も身体も激変してしまうほど、すごい修行だな〜と感じております。
    「ご安心あれ!」をお守りに、いま子供と過ごしている心と身体が忙しい時間もそれなりに楽しんでいこうと思いました⭐︎
    ありがとうございました。

    • manami ooi より:

      ととさん、こんにちは!
      お気持ちを共有できて嬉しいです。4月からのお子さんのご入園、少し早いですがおめでとうございます。これから益々成長が楽しみですね! きっと私たちはこれから、子どもたちに新しい価値観をどんどん教えてもらうのでしょうね。あたたかいメッセージをありがとうございます^_^

  2. TOMOKOFUJITA より:

    ステキな記事をありがとうございます!
    とても軽やかな気持ちになりました。
    giveのあと、その思いがイロイロな方にリレーして、giveの相手からではなく別の方から返ってくることもあり、それが思ってもみなかったことだったりもするので、無限大の楽しみがあるなぁと思いました。
    やってみたいなぁとか、どうしようかなぁと迷ったときは、勇気を出してやってみようと思います。余白を楽しみながら軽やかに…*

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