感情を認める

ときどきどうしても、怒り、悲しみ、不安などネガティブな感情が湧いてくることがある。

過去の私はこんな気持ちになってしまう自分を認めることができなかった。怒ってはいけない、悲しんではいけない、不安を感じてはいけない、今そう感じてしまう自分は悪い自分である。だから、努めてポジティブに振るわなければならない。私は怒らない、悲しまない、不安にはならないでいようと。

そうするとどうなるか。今度は体調が悪くなる。感情は生体反応のひとつであるから、能動的に抑制することは、本来はできない。それを無理矢理抑制しようとするのだから、別の形で生体反応が表れる。その最たるものが身体の不健康である。ネガティブ感情が湧いたとき、身体はその持ち主である自分に何らかの危険信号を送っているのである。このままその行動が続くと危険だから回避せよ、と。

感情は生体反応として行動のスイッチの役割を担っている。ポジティブな感情は行動を促進させたり維持継続させるための原動力となり、ネガティブな感情は行動を抑制させたり中断回避させるための原動力となる。ネガティブな感情があるというのは、ポジティブな感情があるのと同様に、自分の生体反応のセンサーが正常に機能している証拠なのである。

ではネガティブ感情が湧いたときに、どんな行動をとることを選択するか?実はこちらは自分で決めることができる。そして適切な行動を選択することによってその後にネガティブな感情を暴走させないことができる。

例として、自分の体調が悪くなりそうな気配を感じたときを想像してみよう。なんだか喉がイガイガする、体がゾクゾクする。そのときどうするか? これくらいなら大丈夫だろうと夜更かししたり暴飲暴食したり薄着で風に当たったりすれば、間違いなく悪化する。一方、慎重になって早めに寝たり温かい服装をすれば体調の更なる悪化を食い止めることができるかもしれない。

同じことをネガティブ感情が湧いたときに当てはめてみよう。

お店で注文したものを受け取ると散々確認したにもかかわらずミスがあり腹を立てた。そのときどうするか?何回言ったらわかるんですが、もういいかげんにしてくださいよ、せっかく確認したにもかかわらず全く信用できません、もう二度と使いませんから(ピシっ)などと暴言を吐く行動を選択すれば、自分の感情はどんどん暴走しさらに腹を立ててしまう。更には、それでも気持ちが収まらずにSNSであのお店の対応は最悪だったなどと書き込みをしてしまうかもしれない。一方で、誰しも間違うことはありますよね、作り直してください、次は間違うことはないですよね、と伝える行動を選択すれば、腹が立った気持ちが勝手に暴走するのを防ぎ、自分の感情がニュートラルな状態に戻す助けができる。

このように、無理にポジティブになろうとすることはなく、腹を立ててはいけないと思うこともなく、ただ今自分が腹を立てたことを認めて、それを受け止め、腹を立てた気持ちをそれ以上膨らませないような行動を選ぶのだ。

もちろんそんなに簡単なことではない。でも練習すれば少しずつでも必ずできるようになる。慣れるまでは瞬発力が必要なので、自分によってよくあるシチュエーションとネガティブ感情を想像し、そのときに取り得る暴走しないパターンのシナリオを予め考えておくのだ。どこでもすぐにできて道具がいらない方法がよい。決め台詞を考えておく他、気をそらすおまじないを唱える、鏡に写っている自分の表情を想像してにっこり顔に変える、頭の中でお気に入りの曲を流すとか。

もしかしたら、こんなことではとても感情の暴走を止められない、ということもあるだろう。そういうときはネガティブな感情を増幅させることによって得ているメリットに着目してみるとよい。腹を立てているときは、周りに人を近寄らせないメリットを得たいのかもしれないし、不安で鬱々しているときは誰かに心配してもらいたいのかもしれない。もしそうならば、そのメリットをネガティブな感情以外の方法で手に入れる手段を考えることも対策になるだろう。

感情に支配されず、感情を支配せず、感情を認める。それは相手を認めると同時に誰よりも自分を認めることにつながる。

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