”首”を鑑賞して

北野武監督、最新作、”首”を鑑賞してきました。

鑑賞後すぐの感想は

”はぁ?”

でした。

”え、これが海外の映画祭で賞をとった(過去に)監督の作品?”

などとすら思ったのです。

が、しばらくして感じたのは
むしろ、
”読み終えた後の爽快な読後感!”
”感動で何度も読み返しました!”
”あの主人公に感情移入しすぎて涙が止まりませんでした!”
とか、
名作につきもの&おきまりの”あれやこれや”、つまり、期待を
持ってしまっているのは”つまり鑑賞の雛形にハマってしまっている”のは、
鑑賞者である我々の方ではなかったかと。

そう思える瞬間が鑑賞後、数時間経ってやってきた、というわけです。

”そういうもの(感動させられるもの)をつくらないと!!”などというプレッシャーというか思いを勝手に託されて、背負わされて、なんなら迷惑しているのは作り手の方ではなかったか?!と過去の自分たちの勝手な思い込みや期待を反省すらさせられるような、
遠隔お叱りmovie!というような作品なのかもなぁ、これは____
などとも感じました。

鑑賞者のエゴに対するアンチテーゼ。

歴史ものとして”くくられる”であろうこの作品ですが、
実は歴史もの的な要素はこの話の舞台が”日本のある歴史の一部分”というだけであって、
あとは正直、壮大なパロディでありコメディであり、キモ面白いであり・・・という作品だったか、と思います。
線で理解するより2時間という尺のなかにある”点”の面白いところを拾っていく、楽しんでいくとうような、新しい鑑賞方法?を求められる作品かな、とも思いました。
随所に見られるかなり”気持ち悪い描写”や”これどうやって撮っているんだろう”と思えるような細工・・・・そういうところにこそむしろこの作品の中にある芸術性・職人性を感じました。
そしてそういったものを魅せるための舞台装置。
それがこの映画の本質かな、などとも思ったり。

ちなみに、ここまで”鑑賞者を舐め切っている”作品は珍しく、
むしろその舐めきり具合が、”面白く、また、新しい立ち位置”だな、と。

また、私個人は、歴史物は好きでよく見ますが、
動画も写真もなかった時代においては、誰かが書き残したものが”歴史の真実(であろうもの)”として後世に残り、それが紡がれて纏められて、流れとなり、今の私たちが理解・知りうることができる日本の歴史というふうになっていますが、
そもそもよく言われるように、歴史は強者・勝者によって書き換えられたりもするもの。

今のように、クラウドでみんなが編集できる時代ではなかったため、
歴史が改竄される、ということは”ままあったであろう”ことは容易に想像ができますし、実際にそうであっただろうとも思うのです。

そうすると、私たちが習った歴史やそこから生まれる物語もある意味”フィクション”かもしれず・・・歴史の改竄や年表に書いてあることの中身の解像度を高めていくということをしたならば、もしかすると今回の”首”に描かれていたようなことがあったとしても、なんらおかしくはないというか、むしろ、こんなコメディライクなことがあった・・・・という可能性だって否定はできないわけで・・・。

今の時代の正装は当時(戦国時代)のそれとは異なり、髪型も言葉遣いも、色々異なります。
価値観や持て囃されるものが異なったとしてもなんら不思議ではなく、まるで違う世界線であることがそういった生活環境・文化的なものの相違からも推察・理解することができます。
であれば、”今の時代の価値観”やその延長線上にあるもので、過去のものを再現しようとすること自体がそもそも”どこかにエラーを孕む可能性がある”ということなのであれば、正確に過去・当時を再現しようと努めるのも良いけれど、ある別の楽しみ方として”ここまで振り切ってくれた方が、エンターテイメントとして楽しい”ものに昇華されますし、ある意味、こういう歴史物もまた大いにアリなのでは、とも感じました。

史実とその中にあるディテールについて

余談ですが、最近だと大河ドラマなどで、あんなふうな言葉使いはしないとか、あんな性格ではなかったのではないかなどと真偽が問われる声・シーンも多く見られるようになってきました。
”本当はどうだったのか”などは”過去データが残っていない”ので本当は誰もわからないのに・・・。

もちろん真実を追い求めることは楽しいし大事だとも思うのですが、逆にこうして”エンタメ路線”に振り切ってもらえると逆に”歴史そのものを、あくまで当時の権力者が作ったものであると、話半分ぐらいに聞く素養も鍛えられそうで、歴史をそのまま受け取らない耐性”ができたりもしそうでいいな、などとも思えたのですね。
そういったことからも今作の”首”は、”本当の歴史は誰にもわからない”という状況・環境を逆手にとり、北野監督がその事実を痛快に皮肉ってみせた、北野節全開の、なんとも痛快な珍作(良作?)だなぁ・・・と、こうして、鑑賞後数時間で、感想と評価が完全にひっくり返った・・・のでした。
(ここまでのひっくり返りは意外と珍しく、私の場合だとevaの最終作(とその前のQ)、ぐらいしかないかもしれません)

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